2025.11.03
図面にすべての寸法公差を一つずつ記入すると、図面は煩雑になり、設計者・加工者・検査担当者の確認作業も増えます。そこで使われるのが、普通公差です。現場では「一般公差」「未指示公差」と呼ばれることもあります。
ただし、重要なのは、図面に公差が書いていない寸法へ、常に自動でJISが適用されるわけではないという点です。図面枠や注記、仕様書などに JIS B 0405-m のような規格・等級の指定がある場合に、その指定を基準として判断します。
この記事では、JIS B 0405/JIS B 0419の基本と、図面・見積り・加工現場で確認しておきたいポイントを、金属部品加工の実務目線で整理します。
普通公差・一般公差・未指示公差の違い
普通公差は、JISやISOで用いられる正式寄りの表現です。一方、製造現場や取引先との会話では、同じ意味合いで一般公差、または未指示公差と呼ばれることがあります。
| 呼び方 | 意味 | 現場での使われ方 |
|---|---|---|
| 普通公差 | 規格で定められる正式寄りの呼称 | JIS B 0405、JIS B 0419などの規格説明で使われる |
| 一般公差 | 普通公差とほぼ同じ意味で使われる慣用表現 | 図面注記や加工現場でよく使われる |
| 未指示公差 | 個別に公差が書かれていない部分に適用する公差 | 「公差未記入部をどう扱うか」という文脈で使われる |
厳密には、図面や仕様書で「どの規格の、どの等級を使うか」を明示しておくことが重要です。例えば、単に「一般公差」とだけ書かれているよりも、「普通公差 JIS B 0405-m」のように指定されている方が、加工側も検査側も判断しやすくなります。
普通公差は「勝手に適用」ではなく、図面・仕様書での指定が前提
普通公差は、図面指示を簡単にするための仕組みです。しかし、図面に何も書いていないからといって、すべての加工品に自動的に特定のJIS等級が適用されるわけではありません。
実務上は、次のような場所に普通公差の指定が入っていないかを確認します。
- 図面枠の注記欄
- 表題欄付近の一般注記
- 部品図とは別の製作仕様書
- 取引先の標準図面規定
- 注文書・検査仕様書・品質協定書
よくある表記例は、次のようなものです。
| 表記例 | 読み方 |
|---|---|
| JIS B 0405-m | 長さ寸法・角度寸法の普通公差として、JIS B 0405のm級を使う |
| 普通公差 JIS B 0405-m | 個別公差のない寸法は、JIS B 0405の中級を基準にする |
| 一般公差 ISO 2768-m | ISO 2768のm級を基準にする |
| JIS B 0405-mK | 寸法はJIS B 0405のm級、幾何公差はJIS B 0419のK級を基準にする指定例 |
見積りや加工可否を判断するときは、個別公差だけでなく、こうした図面全体の注記も確認する必要があります。
JIS B 0405とは:長さ寸法・角度寸法の普通公差
JIS B 0405:1991 は、個々に公差の指示がない長さ寸法および角度寸法に対する普通公差を規定する規格です。対象は主に、金属の除去加工や板金成形によって製作した部品の寸法です。
長さ寸法には、外径、内径、段差、直径、半径、間隔、かどの丸み、面取り寸法などが含まれます。ただし、普通公差に関する別規格が適用される寸法、参考寸法、理論的に正しい寸法などは、JIS B 0405の適用対象から外れます。
f・m・c・v の4等級
JIS B 0405では、加工精度の目安として次の4つの公差等級が使われます。
| 等級 | 呼び方 | 考え方 |
|---|---|---|
| f | 精級 | より厳しい普通公差。加工方法・検査方法の確認が重要 |
| m | 中級 | 一般的な機械加工部品でよく使われる基準 |
| c | 粗級 | 高い寸法精度を必要としない部位向け |
| v | 極粗級 | 大型部品や精度要求が低い部位向け |
同じ寸法でも、f級とm級、m級とc級では許容される範囲が変わります。したがって、図面に JIS B 0405-m と書かれているか、JIS B 0405-f と書かれているかで、加工条件・検査条件・コストが変わる場合があります。
面取り部分を除く長さ寸法の普通公差例
以下は、JIS B 0405のうち、面取り部分を除く長さ寸法に対する普通公差の代表的な抜粋です。実際の判断では、最新版の規格本文、図面注記、取引先仕様を確認してください。
| 基準寸法の区分 | f級 | m級 | c級 | v級 |
|---|---|---|---|---|
| 0.5以上 3以下 | ±0.05 | ±0.1 | ±0.2 | — |
| 3を超え 6以下 | ±0.05 | ±0.1 | ±0.3 | ±0.5 |
| 6を超え 30以下 | ±0.1 | ±0.2 | ±0.5 | ±1.0 |
| 30を超え 120以下 | ±0.15 | ±0.3 | ±0.8 | ±1.5 |
| 120を超え 400以下 | ±0.2 | ±0.5 | ±1.2 | ±2.5 |
例えば、図面に JIS B 0405-m とあり、個別公差のない長さ50mmの寸法であれば、上表の「30を超え120以下」のm級を確認します。この場合の普通公差は ±0.3mm です。
一方で、同じ50mmでも個別に 50±0.05 と記載されている場合は、個別公差が優先されます。普通公差は、あくまで個別に公差指示がない部分を扱うための基準です。
JIS B 0419とは:個別指示のない形体に対する普通幾何公差
JIS B 0419:1991 は、個々に幾何公差の指示がない形体を規制するための普通幾何公差を規定する規格です。等級は H・K・L の3段階です。
寸法公差が「長さや直径などの寸法値のばらつき」を扱うのに対し、幾何公差は「形状・向き・位置のばらつき」を扱います。たとえば、真直度、平面度、直角度、平行度、対称度、円周振れなどが関係します。
真直度・平面度の普通公差例
| 呼び長さの区分 | H級 | K級 | L級 |
|---|---|---|---|
| 10以下 | 0.02 | 0.05 | 0.1 |
| 10を超え 30以下 | 0.05 | 0.1 | 0.2 |
| 30を超え 100以下 | 0.1 | 0.2 | 0.4 |
| 100を超え 300以下 | 0.2 | 0.4 | 0.8 |
真直度は対象となる線の長さ、平面度は長方形の場合は長い方の辺、円形の場合は直径を基準に考えます。
直角度の普通公差例
| 短い方の辺の呼び長さ | H級 | K級 | L級 |
|---|---|---|---|
| 100以下 | 0.2 | 0.4 | 0.6 |
| 100を超え 300以下 | 0.3 | 0.6 | 1.0 |
| 300を超え 1000以下 | 0.4 | 0.8 | 1.5 |
| 1000を超え 3000以下 | 0.5 | 1.0 | 2.0 |
ここで注意したいのは、幾何公差は寸法公差とは別の考え方であることです。寸法が普通公差内に入っていても、形状や向きが機能上問題になる場合があります。摺動、圧入、組付け、回転、位置決めに関わる部品では、図面上で個別に幾何公差を指定する方が安全な場合があります。
真円度・円筒度・同軸度の注意点
JIS B 0419では、真円度の普通公差は単純な寸法範囲表だけで決めるものではありません。直径の寸法公差や円周振れの普通公差との関係を確認する必要があります。また、円筒度や同軸度については、普通公差として規定されない項目があります。
そのため、軸物・ピン・シャフトのように、回転、摺動、圧入、組付け基準に関わる部品では、「普通公差で足りるか」「個別に幾何公差を入れるべきか」を設計段階で確認することが重要です。
加工現場で起きやすい認識ズレ
普通公差は便利な仕組みですが、指定があいまいなままだと、見積り・加工・検査で認識ズレが起きます。特に多いのは次のようなケースです。
1. 図面に「一般公差」とだけ書かれている
「一般公差」とだけ書かれていても、JIS B 0405なのか、ISO 2768なのか、社内独自規格なのかが判断できない場合があります。等級の指定がないと、加工側はどの基準で見積ればよいか迷います。
2. 機能上重要な寸法まで普通公差任せになっている
圧入、はめ合い、摺動、位置決め、ねじの有効長、組付け基準になる寸法などは、普通公差だけでは不十分な場合があります。重要寸法は、個別に公差を指定する方が安全です。
3. 寸法公差と幾何公差が混同されている
寸法が許容範囲内でも、反り、曲がり、直角度、平行度、振れなどが問題になることがあります。長尺シャフトやピン、スタッドボルトでは、用途によって寸法公差だけでなく形状・姿勢の確認が必要です。
4. 検査方法が決まっていない
同じ公差でも、ノギス、マイクロメータ、ゲージ、画像測定、三次元測定など、どの方法で検査するかによって運用が変わります。全数検査か抜取検査か、検査成績書が必要かも、事前に確認しておくとスムーズです。
見積り依頼時に確認するとスムーズな項目
図面に普通公差・一般公差の記載がある場合、見積り依頼時には次の点を確認しておくと、加工可否や価格の判断がしやすくなります。
- 図面枠や注記に、JIS B 0405-mなどの指定があるか
- 個別公差が入っている重要寸法はどこか
- 普通公差でよい寸法と、厳しく管理したい寸法が分かれているか
- 機能上重要な箇所が、圧入・摺動・回転・位置決め・外観のどれに関係するか
- 材質、径、長さ、数量、表面処理、熱処理の有無
- 検査成績書、全数検査、指定測定方法の要否
- サンプルがある場合、図面優先か現物優先か
特に、古い図面や手書き図面、過去品のリピート案件では、図面の注記と実際の現物仕様が一致していないこともあります。その場合は、図面・サンプル・用途を合わせて確認することが重要です。
株式会社永山での対応方針
株式会社永山では、シャフト・ピン・スタッドボルト・特殊ネジなどの量産加工において、図面指示、用途、材質、径、長さ、数量、加工内容を確認したうえで、必要な寸法管理方法を検討します。
図面に JIS B 0405-m などの普通公差指定がある場合は、その等級を確認し、加工方法や検査方法と照らし合わせて対応可否を判断します。個別公差が指定されている重要寸法については、普通公差とは分けて確認します。
当社が重視しているのは、過剰品質ではなく、用途に対して必要な品質を安定してつくることです。図面の読み取り、量産時のばらつき、検査方法まで含めて、継続案件・リピート品にも対応しやすい加工条件を検討します。
図面確認時にお伝えいただきたいこと
- 図面データ、または現物サンプルの有無
- 材質・数量・希望納期
- 特に重要な寸法、組付け上問題になりやすい箇所
- 検査成績書や指定検査方法の要否
まとめ:普通公差は、図面と加工現場の認識をそろえるための基準
- 普通公差は、一般公差・未指示公差と呼ばれることもある
- JIS B 0405は、個別に公差指示がない長さ寸法・角度寸法に対する普通公差を扱う
- JIS B 0419は、個別に幾何公差指示がない形体に対する普通幾何公差を扱う
- 普通公差は、図面や関連文書で規格・等級が指定されていることを確認する
- 機能上重要な寸法や形状は、普通公差任せにせず個別指定を検討する
- 見積り時は、図面注記、重要寸法、検査方法、用途を合わせて確認する
普通公差は、設計者と加工者の共通言語です。図面の指定が明確であるほど、見積り、加工、検査、量産時のトラブルを減らすことができます。
参考資料・注意書き
- JIS B 0405:1991「普通公差-第1部:個々に公差の指示がない長さ寸法及び角度寸法に対する公差」
- JIS B 0419:1991「普通公差-第2部:個々に公差の指示がない形体に対する幾何公差」
- 日本規格協会 JSA Webdesk
- 日本産業標準調査会 JISC
本記事は、普通公差の考え方を加工実務向けに整理した解説です。正式な判断が必要な場合は、最新版のJIS本文、図面指示、取引先仕様書、品質協定書を確認してください。